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方剤ひろい読み~黄連解毒湯~

黄連解毒湯は幅広く実熱に対して使われる方剤で黄連・黄芩・黄柏・山梔子の4味より構成。

中医学では、効能が瀉火解毒、主治は熱毒壅盛三焦。

 

一般的な生薬学では、

黄 連:苦味健胃薬(主成分はベルベリン)

黄 芩:消炎解熱薬(主成分はオウゴニン)

黄 柏:苦味健胃薬(主成分はベルベリン)

山梔子:消炎清熱薬(主成分はゲニポシド)

 

中薬学でそれぞれの薬物を見ると、

黄 連:苦、寒、心・脾・胃・肝・胆・大腸、清熱燥湿・清熱瀉火・清熱解毒

黄 芩:苦、寒、肺・大腸・小腸・脾・胆、清熱燥湿・清熱瀉火解毒涼血・清熱安胎

黄 柏:苦、寒、腎・胆・膀胱、清熱燥湿・清熱瀉火・清熱解毒

山梔子:苦、寒、心・肺・肝・胃・三焦、清熱瀉火除煩・清熱利湿・清熱涼血止血・清熱解毒

となっており、黄連・黄芩・黄柏は清熱燥湿薬、山梔子は清熱瀉火薬である。

この4味が合わさることで、黄連が主に中焦の清熱、黄芩が主に上焦の清熱、黄柏が下焦の清熱、山梔子が三焦の清熱を行っていると書かれている。

出典・古典ではどうなっているか。

【出典】

『外台秘要』(唐・王燾、752年)

若し胃中に燥糞有れば、人をして錯語(=言語錯乱)せしめ、正に熱 盛るも亦た人をして錯語せしむ。若し秘して錯語する者は、宜しく承気湯を服すべし。通利して錯語する者は、宜しく下四味 黄連除熱湯(=黄連解毒湯)を服すべし。

 

胃腸に燥糞があったり、体内に熱があると錯語を起こす。便秘+錯語なら承気湯、便が出ている+錯語なら黄連解毒湯。

【古典】

・中国

『医方考』(明・呉崑、1584年)

血証門:陽毒 上り窮より出血する者は、此の方 之を主る。病 必ず其の本を求め、陽毒 上り窮より出血するとは、則ち熱 本と為し、血 標と為せばなり。能く其の熱を去れば、則ち血 必ずしも治せざれども自ずから帰経するや。

痘門:裏熱 壅盛する者は、此の方 之を主る。

 

『医方集解』(清・汪昻、1682年)

瀉火の剤:一切の火熱にて、表裏 倶に盛り、狂躁し煩心し、口燥し咽乾し、大熱し乾嘔し、錯語し不眠し、吐血し衄血し、熱 甚だしく斑を発するを治す。

 

『医方論』(清・費伯雄、1865年)

此れ実邪 実火、表裏 倶に盛るを治するの剤なり。

 

『成方便読』(清・張秉成、1904年)

一切の火邪、表裏 倶に盛り、狂躁し煩心し、口燥し咽乾し、大熱し乾嘔し、錯語し不眠し、吐血し衄血し、熱 盛り斑を発する等の証を治す。

・日本

『衆方規矩』(曲直瀬道三、1636年)

傷寒門:傷寒大熱やまず乾嘔煩渇して語を錯(あやま)り呻吟(しんぎん;苦しみうめくこと)して眠らざるを治す。或は汗し吐し下して後熱退かず諸般の積熱実火の者に大いに効あり。

 

『勿誤薬室方函』(浅田宗伯、1879年)

時疾、煩悶に苦しみ、乾嘔、口燥、呻吟、錯語して臥するを得ざるを治す。

『勿誤薬室方函口訣』(浅田宗伯、1879年)

此方は胸中熱邪を清解するの聖剤なり。一名倉公の火剤とす。その目的は梔子豉湯の証にして、熱勢劇しき者に用ふ。苦味に堪へかぬる者は、泡剤にして与ふべし。大熱ありて下痢洞泄する者、或は痧病(急性伝染病)等の熱毒深く洞下する者を治す。また狗猫鼠などの毒を解す。また喜笑止まざる者を治す。これまた心中懊悩のなす処なればなり。又可氏は此方の弊を痛く論ずれども、実はその妙用を知らぬ者なり。また酒毒を解するに妙なり。『外台』の文を熟読すべし。また『外台』に黄蘗を去り、大黄を加へて大黄湯と名づく。吉益東洞はその方を用ひし由、症によりて加減すべし。

 

『漢方処方解説』(矢数道明、1966年)

実熱を治する処方で、熱性病の急性期に用いるが、実熱の症の慢性化した雑病にも用いられる。本方は主として吐血・喀血・衄血・下血・血尿・麻疹・痘瘡・皮膚病・皮膚掻痒症・蕁麻疹・諸熱性病の残余余熱に用いられ、また狂躁症・血の道症・めまい・心悸亢進症・ノイローゼ・精神病・脳溢血・高血圧症・酒渣鼻・黒皮症等に広く応用される。